少しずつ、料理をしていると汗をかく季節になった。大根と油揚げの味噌汁が出来上がったところで、神楽ちゃんが寝ている押入れを軽くノックして少しだけ開ける。

「神楽ちゃん、朝だよ~」
「んん…定春~それはご飯じゃないアル…」

ぼんやりと覚醒していく神楽ちゃんを起こして、定春くんのご飯を準備する。器に山盛りの餌を入れて、次は銀さんを起こしに行く。彼は、なかなか神楽ちゃんのようにすんなり起きてくれない。銀さん、と声をかけて寝室に入ると、銀さんの大きないびきが聞こえてきた。隣に座って彼の体をゆさゆさと揺らす。

「銀さん、朝です」
「んん…あと5分…」
「だめです、今日こそ依頼が入るかもしれませんよ」
がおはようのチューをしてくれたら…」

まるでタコのように唇を突き出す銀さん。これはいつものことで、わたしは人差し指と中指を銀さんの唇にぴとっと軽くくっつけた。これで神楽ちゃんに引き続き銀さんも覚醒する。

「おはようございまーす」
「あ、新八くんおはよう」
「おはようございますさん、いつもすみません」
「ううん、今2人とも起きたところだから」

ご飯をよそって、4人と1匹の朝食タイム。万事屋の1日は、ほぼ毎日このようにして始まる。
朝食が終わり、それぞれが思い思いの時間を過ごす。わたしは先日お妙ちゃんから借りた着物を風呂敷に包んで立ち上がった。新八くんに聞いたところ、夕方までならお妙ちゃんは家にいるらしい。

「銀さん、わたしちょっとお妙ちゃんに着物返してきますね」
「んなのぱっつぁんに渡しときゃいいじゃねーか」
「そうですよ、わざわざ行かなくても僕を使ってください」
「ありがと、でもこの間のこと謝りたいし」

この間、というのは、当然わたしが数時間だけお妙ちゃんのお店にお世話になった日のことだ。あの時、結局わたしは銀さんに連れられお妙ちゃんにあいさつも出来なかった。ちょうどそのとき、万事屋の前から1人の男性の声が聞こえてきた。

「すみませーん、坂田くんいますかー」
「はあい!銀さん、依頼人の方かもしれませんよ!」
「なんかすっげェ嫌な予感すんだけど…」

わたしは急いで玄関へ向かい、戸を開けた。

「はいは…い…」
「ん?そなたは…」

目の前に立っていたのは、長髪の男性と白いペンギンのような生物。わたしはこの2人を、見たことがある。団子屋なのに、しきりに蕎麦を注文していた姿。慌てて戸を閉めたわたしは銀さんたちのいる居間へと走っていった。神楽ちゃんと新八くん、そして銀さんがきょとんとしてわたしを見る。

「ぎっぎぎ、銀さん…!しっ指名手」
「邪魔するぞ、銀時」

すっと音もなく入ってきたその人に、わたしは驚いて定春くんの体に抱きついた。あのときの爆風や爆音が体内で鳴り響いてる気分になった。そんなわたしとは違い、銀さんは読んでいたジャンプを置いてふわあ、とひとつ大きな欠伸をこぼす。

「相変わらずだな」
「ヅラ、お前こそうちのに大迷惑かけてくれちゃってんじゃねーの」
「ヅラじゃない桂だ!…ああ、そなたは団子屋の」
「はっはい!」
「そうか、銀時もとうとう身を固めたか」

うんうんと頷くその人と、横で棒立ちしている白いペンギンのような生物。そういえば桂さんという名前だったな。わたしは近藤さんに詳しく説明されたことを思い出した。だけど…。わたしは近くで酢昆布をかじる神楽ちゃんに耳打ちする。

「神楽ちゃん…銀さんと桂さんって…」
「あの2人はマブダチみたいなもんアル」
「ええっ?」

桂さんのことはそんなに悪い人だとは思っていないけど、それにしても指名手配犯とお友達って…。まだまだわたしには、銀さんについて知らないことがたくさんあるらしい。もしかして真選組と銀さんが仲悪い理由ってこれ…!?お茶をいれますね、と言って台所へ向かった新八くんに慌ててついて行き、しまっておいたお饅頭を取り出す。万事屋が爆破されないか少しヒヤヒヤしながら、お茶とお饅頭を運んだ。

「んで?わざわざ何の用よ」
「いや、蕎麦を食いにな」
「うちは蕎麦屋じゃねーんだよ」
「ところで殿といったか、今妊娠何か月かな?」
「んなっ…!」
「オイイイイ!いきなり下ネタかよ!っていうかこれ下ネタ!?」
「いや~まだ種植えてねーからなァ」
「ちょっ銀さん!」
「何アルか?妊娠するためには種を植えるアルか?」
「銀さんのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲からは特殊な種が出るのであってだな」
「ちょっと!今幼気な少女に種どころか間違った情報植え付けようとしてるよアンタ!」

一気に賑やかになった万事屋に苦笑いをこぼす。桂さんはひとしきり雑談をした後、そろそろ帰るぞエリザベス、と言って立ち上がった。どうやらこの白い生物はエリザベスという意外と洋風の名前らしい。お前本当に何しに来たの、と言う銀さんに対し、笠をかぶった桂さんが口を開いた。

「高杉が江戸に来ているらしい」

高杉?聞き覚えのない名前に銀さんの目元がぴくりと動くのが分かった。

「別にアイツが来ようが来まいが俺には関係ねーよ」
「銀時、ヤツがお前に接触しないとも限らんだろう」

お前にも守るものが増えたのであろう。用心するに越したことはない。そう言って玄関へと向かう2人の後をわたしは追う。

「邪魔したな」
「いえ、次はちゃんとお蕎麦用意しておきます」
「…殿」
「はい?」
「銀時を、よろしく頼んだぞ」
「…はい」
「たまには旧友の顔を見に来るのも悪くないものだな」

桂さんは、きっと人を思いやることのできるいい人だ。



ただしいよりもたのしいがいい



(20151013)