目の前が真っ白になって一瞬はっとなったけど、それが総悟くんの首元のスカーフだと理解するのにそこまで時間はかからなかった。総悟くんを見ると、口パクで「か、く、せ」。どうやらスカーフで顔を隠しておけ、ということらしい。でも隠したら、なにかやましいことがあるように思える。なにもないのに。しかしだんだん銀さんの声が近くなってきて、わたしは反射的に顔が隠れるようにスカーフを巻いた。どんな風になっているか見えないけど、100パーセント怪しいはずだ。
「総一郎くんじゃん、未成年がキャバクラなんか来ちゃって警察も落ちぶれたもんだなオイ」
「総悟でさァ旦那、今日はうちの上司の付き添いなんでィ」
「付き添いとか言いつつちゃっかり女の子はべらせてんじゃねーの」
ぎくり。俯いているわたしからは、銀さんがどんな顔をしているのかさっぱり分からない。
「俺のお気に入りのチョメチョメ子でさァ」
「へ~チョメチョメ子ちゃんね~、変わった源氏名じゃねーの、ちゃん」
やっぱりスカーフ1枚は無理がありますよね!
「ぎ、銀さ、ひいっ!」
急に銀さんに引っ張られてスカーフがはらりと落ちたかと思えば、抱きかかえられてそのまま米俵を担ぐように肩に担がれた。慌ててお尻を押さえる。丈が短いから、下手したらパンツ見えちゃう!
「バレバレなんだよ、顔隠したって無駄だっつーの」
「ご、ごめんなさ、」
「総一郎くん、こいつ連れて帰っけど」
文句、ねーよなァ。銀さんの少し低い声にピリッと空気が固まる。やっぱり銀さんと総悟くんって、仲悪いんだ。総悟くんは両手をあげてにやりと笑った。
「あいにく仕事中なんでねェ、ここで旦那とやり合う気はねェや」
「…あ、そ」
銀さんは短くそう答えると、わたしを担ぎ上げたままお店をあとにした。女を肩に担いだ男。すれ違う人たちから好奇の目で見られ、わたしの羞恥心が限界を迎えようとしていた。
「ぎっ銀さん!おろしてください!」
「だめー」
「パンツが見えちゃうんです!」
そう言うと、ようやく銀さんはわたしをおろしてくれた。そして着流しを脱いだかと思うと、それをわたしに着せて再び担ぎ上げて歩き出した。歩かせてはくれないらしい。恥ずかしさは減ったものの、だんだん不安になってくる。銀さん、今何を考えてるの?
万事屋は時間も時間だからか真っ暗で、部屋の隅からは定春くんの、そして押入れの中からは神楽ちゃんの寝息が聞こえてきた。玄関先でようやくおろされたかと思えば、そのまま腕を引っ張られ2人で寝室に入る。そこにはすでに布団が敷いてあって、わたしはそのまま銀さんに押し倒された。わたしの下には布団、上には銀さん。状況を整理したときには、銀さんの唇とわたしのそれがすっかり重なってしまった。キスをするのは久しぶりで、嫌ではないけど頭の中がぐちゃぐちゃになる。ねっとりと銀さんの舌がわたしの舌を絡めとって、だめだ、もう、窒息する、
「っ、ぎ」
「、」
はああああ、と大きなため息をついて銀さんはわたしの首元に顔を埋めた。もうお前、だめ。顔に銀さんの綿あめのような髪の毛が当たって、少しだけ汗の匂いがする。そっと、銀さんの背中に手を回した。
「ごめんなさい、銀さんに相談もせずに…その、怒ってます?」
「あー、どうせ志村姉にそそのかされたんだろ」
…ばれてる。銀さんは頭をあげると、わたしの目を見つめたままおでこを合わせてきた。みんな、銀さんのことを死んだ目をしていると言うけど、わたしの見る銀さんの目はいつも輝いているように思える。わたしがもう一度謝る前に、銀さんの手が優しく頬を撫でた。
「前、流されときゃいいって言ったけどよ」
「はい」
「こういうのは、断って」
「…はい、っわ」
するりと、銀さんのもう片方の手がわたしの太ももを撫でた。しまった、短い着物を着ていることを忘れていた。あわてて身をよじるも、銀さんの体重がかかっているためうまく身体が動かせない。
「その格好、反則」
「似合ってないですよね」
「似合ってっけど」
俺以外の男の前で着るのはだめだから。苦笑いを零しながらそう言った銀さんに、たまらなくなる。銀さんの背中に回してる腕に力をこめると、遠慮がちにわたしの太ももを摩っていた彼の手がピクリと動いて、そのまま帯に触れた。彼は、優しい。その優しさをどうかわたしだけに向けてほしい。そんなわがままを思い浮かべながら、わたしは目を閉じた。銀さん、銀時さん。今まで口に出したことなかったけど、わたしこの世界にこれて、銀時さんに会えて、本当に良かった。
その優しさをわたしだけに
(20151013)