「あ」
「あ」
「お妙さギャアアアア!!」

お妙ちゃんの見事なアッパーにより悲鳴をあげながら飛んでいく近藤さんの後ろで、わたしを見た土方さんと総悟くんがほぼ同時に声をあげる。隠れる暇さえなく、わたしは短い着物の丈を少し手で引っ張りながら視線を彷徨わせる。お妙ちゃんは、やはり仕事中というのもあってかいつものように近藤さんを死の淵に追いやることはせず、そのまま松平さん?というわりと年配の方と一緒にテーブルへと向かっていった。わたしも、お妙ちゃんと同じテーブルに…!と思うけれど、目の前の2人の視線が痛すぎてなかなか動き出せず、変な笑い方しかできない。

「あ、はは…お久しぶりです…」
「…何してんだ、お前」
「えーと、これには訳、がっ?」

説明する前に、総悟くんがわたしの腕を掴んでそのまま店内を突っ切っていく。その結果、お妙ちゃんと同じテーブルにつくはずだったのが、お妙ちゃんからよりにもよって一番遠く離れたところに座る羽目になってしまった。総悟くんはソファにどさっと腰掛けると、一言。酒、と。

「いや、総悟くん未成年でしょ」
「団子屋の売り子からキャバ嬢たァ、芋虫から華麗な蝶に変身ですかィ」
「だ、誰が芋虫よ!それに、これは今日だけだもん」

そう、今日だけの辛抱。自分に言い聞かせるようにそう言うと、わたしは氷のたっぷりと入ったウーロン茶を総悟くんに差し出した。わたしのテーブルには総悟くんと、後からやってきた土方さん(総悟くんは死ぬほど嫌な顔をしていた)と、わたしの3人。土方さんにお酒を差し出すと、ああそういえば、と何かを思い出したように切り出した。

「この間の履歴書の話だが、近藤さんに話したらすぐにでも女中として働いてほしいってよ」
「あ…そのことなんですけど」
「何でィ、土方さんもうにツバつけてたんですかィ」
「人聞きわりーこと言うなクソガキ」
「それが、ありがたいお話なんですけど」
「いい話じゃないですかィ、うちの女中の給料なら一人暮らしだってできやすぜ」
「真選組の女中は応募が少ねーからな、明日からでもいいぞ」
「いや、あの」
「ちょうど良いや、最近下僕…女中の数が減って困ってたんでィ」
「フルタイムでいけんだろ」
「ちょっ」
「最近ペット…女中の数が減って暇してたんでィ」

なんでこの人たちは人の話を聞いてくれないの…!お断りをする前に土方さんは落ち込んでいる近藤さんの元へ行ってしまい、テーブルにはわたしと総悟くん2人きりになった。すると、わたしの膝にいきなり総悟くんの頭が乗っかってきてわたしは思わずわっ!と小さな悲鳴をあげる。世間で言うところの膝枕というやつだ。

「あー酔っ払っちまった、膝貸してくだせェ」
「総悟くん、お酒飲んでないじゃない!」
「良いじゃないですかィ、膝くらい」

いつもより短い丈の着物のせいで、わたしの膝に直に総悟くんの髪の毛が落ちる。さらさらしていて、くすぐったい。目を閉じた総悟くんにこれ以上何を言っても無駄だと思い、わたしは黙ってため息をこぼした。万事屋の3人と1匹は、ちゃんとご飯食べたかな。銀さんには、何て説明しよう。

「…女中の話、断るつもりですかィ」

総悟くんが口を開いた。はっとなって彼を見下ろすと、少し悲しそうな顔をしてわたしを見つめていた。

「うん、ありがたいお話なんだけど…その、反対されちゃって」
「キャバ嬢はありなのに?」
「今日は、その…成り行きでこうなっちゃって、話してないから」
「ったく、あんなダメ男のどこがいーんだか、さっぱりですぜ」
「あはは…って、え!?なんで知って」
「バレバレでさァ」

顔が一気に熱くなる。笑って誤魔化すも、総悟くんは先ほどの悲しそうな顔とは打って変わって少し拗ねたような表情を見せていた。それが可愛く感じて、わたしは思わず総悟くんの髪の毛に指を通した。年下だし、なんだかまるで、

「弟みたい」

そう呟いた瞬間。総悟くんがガバッと起き上がる。わたしは顔を激突させてしまいそうだったのを何とか回避し、驚いて目を瞬かせた。そのまま総悟くんがわたしの方に倒れこんだかと思ったら、首筋に鋭い痛みが走った。

「いっ…!」
「次、弟だなんて言ったら、容赦しやせんぜ」

どうやら首筋を噛まれたらしい。じんじんと痛むそこを手で押さえながら、わたしは訳がわからないままごめん、と謝った。弟って、気に食わなかったのかな。でも、なんで?2人の間に沈黙が流れる。ちょうどその時、入り口の方からよく知ってる声が聞こえてきて、身体が硬直した。

「お客様!本日貸切となっておりまして…」
「あー大丈夫大丈夫、ちょっと俺のツレが来てるらしくってさァ、探したらすぐ帰っから」

ぎ、銀さん…!?



かわいい化け物



(20150917)