「まったくさんったら水くさいんだから、わたしに相談してくれれば良かったのに、友達でしょう?」
「や、あの、お妙ちゃんやっぱりわたし」
「大丈夫よさん可愛いし適当に相槌打っておけば、うち人出足りなかったのよね~」
はい、出来た!お妙ちゃんはそう言うと、化粧道具を片付けわたしの肩をぽん、と叩いた。目の前の鏡にはいつもよりしっかりと化粧を施したわたしの顔。いつもよりずっと丈の短い着物。控え室にまで漂ってくるお酒の香り。自分が立ち入ってはいけない場所にいる気がして、そわそわと落ち着かないわたしを見たお妙ちゃんは人差し指を唇の前に持ってきて、にっこりと微笑んだ。
「大丈夫、銀さんには秘密にしておくから」
彼の名前に、きりきりと痛み出す胃。わたしは諦めが含まれたため息を吐いた。
始まりは、夕方彼女の家を訪れたときのこと。
「えっ、仕事?」
お妙ちゃんに話があると言われ、彼女の家にお呼ばれしたわたしは驚いて声を上げた。お妙ちゃんが、わたしにぴったりの仕事があると言うのだ。
「さんにぜひやってもらいたい仕事なのよ、だからあんなゴリラがまとめるゴリラ養成所に行くなんてバカなこと考えないで」
「…銀さんから聞いたの?」
「神楽ちゃんよ」
先日の状況を嬉々として話す神楽ちゃんの姿が容易に頭に浮かんで苦笑いをこぼす。
「ちなみに仕事って…」
「簡単に言うと接客の仕事なの、お団子屋さんで働いてたさんなら簡単にこなせると思うわ」
「なるほど…」
接客の仕事はわりと得意な方だし、知り合いのお妙ちゃんが紹介してくれるんなら安心だ。お腹がすいた!と部屋中を破壊してまわろうとする神楽ちゃんと、最近パフェを食べれずにイライラして定春くんや新八くんとよく喧嘩している銀さんの姿が浮かび、わたしは勢いよく頷いた。
「わたしで良ければ、ぜひやらせて下さい」
「良かった!じゃあ早速行きましょうか」
「え、今から?」
「ええ、今から」
善は急げよ、と立ち上がったお妙ちゃん。夕陽を浴びた彼女の微笑みはわたしより年下だということを忘れさせてしまうくらい美しい。
そして今、彼女の口からは金やドンペリといった言葉が次々と溢れ出している。
「さん、コツはね、相手に隙を与えずドンペリを注文することよ」
耳元でドンペリドンペリ呟き続けるの。そして相手が、え?ドンペリ?と言った瞬間、わたしたちの勝ちよさん。お妙ちゃんの話す内容が頭の中をぐるぐるかき回したあと両耳からしゅうっと出ていく。キャバクラという場所に入ったのは生まれて初めてで、思っていたよりも広くて綺麗な店内にわたしは瞬きを繰り返すことしかできないでいた。ぼうっと、準備をする他の女性たちの姿を眺める。こういうところで、銀さんも、お酒を飲んだりしたことがあるのだろうか。綺麗な女の人に囲まれて。
「さん?大丈夫?」
「えっ、あ、うん」
「そんなに緊張しないで、さんはずっとわたしと同じテーブルについててもらうから」
それに今日はお偉いさんの貸し切りらしくてね、詳しくは店長から聞かされていないんだけど何だか嫌な予感がするわ。頬に手を添えてふう、とため息をつくお妙ちゃん。人手不足で困っていたお妙ちゃんと、仕事が欲しくて困っていたわたし。・・・ええい、ここは覚悟を決めよう!
その前に、銀さんに遅くなるって連絡しないと。
そう思った瞬間、入り口の方が騒がしくなりお店が開店したことに気付く。それと同時に隣のお妙ちゃんが小さく舌打ちする音が聞こえた。
「おお~い、今日店の子少なくねーかァ?せっかくの貸し切りだってのによォ」
現れたのは、煙草をくわえサングラスをした何だか怖そうな男性。しかし、その恰好は何だか見覚えがある。
「いらっしゃいませ松平様、そんなことありませんよ~今日は新しい子もいますから、楽しんでいってください」
男性に歩み寄りニコニコと笑うお妙ちゃんにわたしもついていこうとして、立ち止まる。男性の後ろからぞろぞろと現れた人たちの姿に思考が停止した。
「今日は俺の奢りだからなァ、お前ら好きなだけ飲め~!」
「お妙さァァァん!愛しの勲が来ましたよォォォ!」
「ったく・・・結局キャバクラかよ、とっつぁんにも困ったもんだぜ」
「とか言いつつ、鼻の下伸びてますぜ土方さん」
「伸びてねーよ、殺すぞ総悟」
な、なんで真選組の皆さんんんんん!!?
笑ってしまいそうな夜
「おい新八、お前いつまでいんだよさっさと巣に帰れ、巣に」
「人を蜂みたいに言うのやめてくださいよ・・・ったく、じゃあ僕帰りますからね!」
「おーおー帰れ帰れ、あ、に早く帰ってこいって伝えとけよ」
「え?さん家に来てるんですか?」
「お前のゴリラ姉に呼ばれて行ってんだよ」
「姉上のことゴリラ呼ばわりするのやめてください!・・・というか、姉上は今日仕事のはずです」
「あ?」
「この時間なら、もう仕事行ってるはずですけど」
「・・・え?」
「え?」
(20150517)