「却下」

やっぱり。わたしは新八くんの淹れてくれたお茶を飲みながら、銀さんが吐き捨てた予想通りの言葉に静かに納得していた。

「大事な大事な可愛い~ちゃんをあんな下衆いチンピラ共の巣窟に放り込めるかってんだ」
「銀さん…ちょっと気持ち悪いです…」
「うるせー」
「でも、お団子屋さんが始まるまでだいぶ時間ありますし」
お前は金のこととか気にしなくていーの、どどーんと愛する旦那に任せてればいいの」
「だっ…!?」
「えええ!?銀さんとさんってもうそこまで進んじゃったんですかァ!?」
「新八ィ、お前がどこぞのアイドルに現を抜かしてる間にワタシの計らいでちゃーんとと銀ちゃんはくっついたネ」
「ぼ、僕がお通ちゃんのライブに行っている間にそんなことが…」
「いや、ちょっとみんな、」

その時だった。誰もいないはずの寝室の襖がスパーン!と小気味良い音を立てて勢い良く開かれる。

「ちょっとアナタ達!銀さんはわたしの旦那よ!勝手なこと言わないでちょうだい!」

…あ。



僕はきみといたい



全てがスローモーションに見えた。机に脚を投げ出して社長椅子に座っていた銀さんが、私たちの目の前を飛んで行きいきなり現れたあの時の女性に蹴りを入れる。物凄い音を立てて飛んで行った女性。明らかに先程よりもイライラしている銀さんが、そのまま襖を閉めて何事も無かったかのように再び椅子に腰掛けた。

「と、に、か、く、真選組はダメ」
「いやっそれより銀さん」
「まあ確かに…ストーカーがボスの組織にさんが入るのはちょっと不安ですよね」
「それにが洗脳されてあのゴリラと同じようにストーカー化したら大変アル」
「まあ俺のストーカーなら大歓迎だけどな」
「ちょ、みんな」

何事もなかったかのように話を続ける3人。わたしは慌てて立ち上がった。すると再び襖が、今度はゆっくりと開かれる。

「放置プレイね…さすが銀さんだわ…!」

眼鏡が割れている彼女は恍惚とした表情を浮かべていて、目が合ってどきりとする。この前彼女から言われた言葉が頭の中に浮かんだ。銀さんはね、あなたみたいな普通の女じゃ釣り合わないのよ。わたしが口を開く前に、いつの間にか私の背後に立っていた銀さんがわたしの頭の上に手を乗せて、相変わらず機嫌悪そうに話し出した。

「っだーれが旦那だこのクソアマお前のせいで俺たちがどんな目に合ったと思ってんだ石つけて海に沈めたろかコラ」
「いやだわ銀さん、放置しておいて次は水責め?…素敵」
「…あの」
「あら、あなたいたの」

銀さんがあまりにも輝いてるもんだから気が付かなかったわ。ヒビのはいった眼鏡をくいっと上げると、彼女は鼻で笑いながらそう言い放った。…正直、あまり良い気はしない。わたしはこの女性とは一度しか会ったことないし、名前も知らない。どういう人…かはちょっとは分かるけど。一つだけ間違いないことは、この女性も銀さんが好きだということ。

「い、いつもうちの銀さんがお世話になってます」

わたしの言葉に、彼女の目元がぴくりと動くのが分かった。後ろで銀さんが少し戸惑ったようにわたしの名前を呼ぶ。

「え、えーと、ちゃん?」
「あーら、いつからあなたの銀さんになったのかしら?」
「う、うちのっていうのは、その…わたしのって意味じゃなくて」
「当たり前よ、変なこと言わないでちょうだい」
「でも、万事屋はわたしの家ですから、だから、うちの銀さんです」
「ず、ずいぶん生意気なこと言う小娘ね、それを言うならここ万事屋はわたしの家でもあるわ」
「いつからさっちゃんさんの家になったんですか…銀さんも、黙ってないで何か言ってくださいよ」
「いや~が負けじと俺のために争ってる姿…可愛くね?」
「どこまで気持ち悪いんだアンタ!って神楽ちゃんなんでカメラ回してんの!?」
「わたしこういうドロドロした展開大好物アル」
「だめだコイツら!ほ、ほらさんもさっちゃんさんも、とりあえず落ち着きましょうよ!」
「…いいわ、今日はこれくらいで勘弁しといてあげる」

またね、銀さん!彼女はそう言って投げキッスをひとつ飛ばしたあと、髪をなびかせながらすっと寝室へと入っていった。わたしは迷って、彼女を追って寝室に入る。彼女はちょうど窓に足をかけて、部屋を出ようとしているところだった。慌てて呼び止めると、彼女は不機嫌そうに振り向いてわたしを上から下まで眺めた。少したじろいだが、私は彼女に近づく。

「眼鏡、すみませんでした、それと…額、ちょっと血が出てるみたいなので、これ…」
「いらないわ」

あっさりと一蹴されて、差し出した絆創膏が行き場をなくす。先ほど自分の口から出てきた言葉の数々が嘘のように何も言えなくなったわたしに、目の前の彼女は呆れたようにため息をついた。そして私の手から絆創膏を奪い取り、自分の血が出ている額に貼り付ける。

「言っておくけど、私あなたのこと嫌いよ」
「…あはは」
「でもライバルがいればいるほど燃えるものよね、あなたに銀さんは渡さないわ」
「あ、さっちゃん、さん!今度は、」
「何よ、さんって!さんなんていらないわよ!」

怒っているのか怒っていないのかよく分からないようにそう言ったさっちゃんさんは、窓からひらりと飛び降りるとあっという間に消えてしまった。今度は、ちゃんと玄関から来てくださいね。



(20150224)