「新ちゃんから聞いたわ、大変だったわねさん」
ことん、とわたしの目の前にお茶を出してくれたお妙ちゃんに笑顔でううん、と軽く首を横に振る。わたしは神楽ちゃんと二人でお妙ちゃんの家を訪れていた。新八くんから「姉上が心配していたので、良ければ顔だけでも見せてあげてください」と言われたのだ。前から買い物に付き合ってもらった時のお礼もしたかったし、ちょうど良かった。隣では神楽ちゃんがむしゃむしゃと手土産のお饅頭を頬張っている。お妙ちゃんはわたしの顔を見て、困ったようにため息をついた。
「せっかくの綺麗な顔に傷までつけられちゃって」
「いや…そんな酷い傷じゃないし、すぐに消えるよ」
「姉御、大丈夫アル!が傷物になったとしても銀ちゃんが貰ってくれるネ!」
「!んぐ、げほっ」
「あら」
いつの間にそんな仲になったのかしら?神楽ちゃんの発言に驚いて咳込んでいるわたしにお妙ちゃんがニコニコしながら聞いてくる。そんな仲って言われても、べ、別に特別な関係になったわけじゃないし、そりゃあキスは、した、けど!だからどうこう、って話はよく考えたらしてないし…。隣では神楽ちゃんがお饅頭を両手に持ち興奮したように立ち上がった。
「のお店が爆発したって銀ちゃんに伝えたら大慌てで飛び出して迎えに行ったネ!」
「神楽ちゃん、食べてる時は座りましょうね」
「しかも昨日の夜中トイレに起きたとき、ごっさ良い雰囲気だったアル!!」
「あ、あれは別にっ」
「神楽ちゃん、聞こえなかったのかしら?」
神楽ちゃんは座って両手のお饅頭をお茶で流し込むとわたしの腕をがしっと掴んだ。
「、銀ちゃんは確かに万年金欠のだらしない男、マダオアル…でもああ見えて一番のことを考えてるネ」
「神楽ちゃん」
「にこんなこと言ったらいけないって分かってるアル、でも」
これからも銀ちゃんの側に、万事屋にいてほしいネ。そう小さな声で呟いた神楽ちゃんに胸が締め付けられる。坂田さんだけじゃなくて、神楽ちゃんもわたしのことをそんな風に思ってくれてたのかな。大事な家族だ、って。しばらくして、黙っていたお妙ちゃんがさん、とわたしの名前を呼んだ。わたしは顔を上げる。
「私はね、新ちゃんからそんなに詳しい話を聞いているわけじゃないから、どうしてさんが万事屋に住むことになったのか、とか知らないのよ」
「…うん」
「でも、誰にだって自由に生きる権利はあるわ」
さんがこれからも万事屋にいたい、あのまるで脱力感の塊の男、マダオな銀さんと一緒にいたい、そう思うんだったらそうすればいい。それが嫌なら、今神楽ちゃんが言ったことは気にせず好きにすれば良い。ただそれだけのことよ。難しく考えることなんてないの。お妙ちゃんは優しく笑う。坂田さんが言ってくれたことと同じ。わたしは何も、難しく考える必要なんてないんだ。やる気のない坂田さん、お団子を神楽ちゃんと取り合う坂田さん、ジャンプを読む坂田さん、真選組まで迎えに来てくれた坂田さん、わたしの怪我の手当てをしてくれた坂田さん、優しく、キスしてくれた坂田さん。すとん、と心に何かが落ちてきた気がした。わたしは、わたしは。
「わたし、これからも坂田さんの側にいたい…」
…です。なんとなく恥ずかしくて、敬語にして誤魔化す。神楽ちゃんはにやにや笑いながらわたしの顔を覗き込み、お妙ちゃんはよく言えました、とパチパチと拍手をしてくれた。何だか年下の子達に気を使って貰って、更に恥ずかしさが増す。
「でも正直、銀ちゃんには勿体無い気もするアル!」
「や、やっぱ釣り合わないよね」
「さん逆よ逆、さんにはもっと真面目で優しくて誠実で天パじゃない男性が似合うと思うんだけど…」
「全くもってその通りですなァお妙さん!ちゃん、ウチの総悟やトシなんかはどうだ?万事屋と違って髪も志も真っ直ぐな男だぞ!」
ピンク色になりつつあった部屋の空気が一瞬にして固まる。
「いっつもいっつもどうやって入ってくんだテメェェェ!!」
「げふぅっ!!」
「こっ、近藤さん!」
「嫌だわ、ごみ袋あったかしら」
お妙ちゃんのキックにより庭の木に激突した近藤さんの元に慌てて駆け寄る。この間のように失神はしていないようで、お妙さんのキック、相変わらず素晴らしい…!と感動し涙を流していた。
「良かった、無事みたいですね」
「いや、ちょっと頭割れた気がするんだけど俺」
「近藤さん、先日はすみませんでした…襖、破ってしまって」
「ん?なァに!あんなの大した事ないさ!いっつも総悟とトシが喧嘩して屯所を破壊するからな、それに比べたら可愛いもんだ!」
姉御ー!ごみ袋あったアルー!後ろから神楽ちゃんの明るい声が聞こえた。わたしが座り込んでいる近藤さんに手を貸すと、そういえば!と近藤さんが何か思いついたように声を上げた。
「総悟が今日ちゃんの見舞いに万事屋に行くとか言っていたぞ!」
「え、総悟くんが?」
「アイツなりに責任を感じているんだろう、だが入れ違いになってしまったようだな」
「なにさんの手気安く触っとんじゃァァァ!!」
「ギャァァァァ!!」
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「お邪魔しやーすってありゃ、がいねェや」
「総一郎くん、チャイムって知ってる?」
「総悟でさァ、旦那」
ソファに寝転がりテレビを見ている最中に不法侵入してきたチンピラ警察にちらりと目をやる。なら神楽と志村んとこ。短くそう言って再びテレビに視線を戻す。聞こえていたはずなのに帰る気配のない野郎に、俺はわざと盛大にため息をついてみせた。むくりと起き上がり、部屋の入り口に立っている沖田くんを見て、内心めんどくせーことになりそうだな、と思っていた。くるくるくるくる、首輪を指で回しながら俺を見つめる沖田くん。
「で、に何の用なの?」
「別にただのお見舞いでさァ」
「なに?お見舞いってさっきからその指でくるくる回してるやつ?残念だけどアイツはそういうSM趣味持ち合わせてねーよ?」
「旦那ァ、アイツの顔に傷つけちまったのは俺なんで」
「…何が言いたいワケ?」
「旦那とがどういう経緯で家族ってモンになったのか知りやせんが、」
のことは、俺が男として責任ってやつをキッチリ取らせてもらいやすぜ。首輪を軽く宙に放り投げて、キャッチした後ににやりと笑った沖田くん。あーあー、顔が一端の男の顔してるもんなァ。俺は再びため息を吐き出した。
薄い発狂
ほら、めんどくせーことになった。
(20140712)