どうやら誤解、だったようだ。色々と。

わたしが無事に万事屋へ戻ると、神楽ちゃんは物凄い力で抱き締めて出迎えてくれたし、新八くんも無事で良かったです、と言って涙目でわたしの手を握ってくれた。物凄く、わたしのこと心配してくれてたんだ。

「なーににやにやしてんだよ」
「し、してません」

時刻は夜中12時前、日付けが変わろうとしていた。賑やかだった万事屋は今はしん、と静まり返っている。なんとかシャワーで汗を流したわたしは、ソファに座って坂田さんに怪我した部分をもう一度消毒してもらっている。自分でやりますから、と言ってはみたものの、なかなか片手で包帯を巻くのは難しいものでお願いしたのだ。くるくる、と綺麗にわたしの腕に白い包帯が巻かれていく。ふと、隣に座る坂田さんの顔を盗み見た。ずっと俺らと一緒に暮らせば良いじゃねーか。そう言ってくれたときの坂田さんの真剣な表情を思い出す。というかあの時、わたしが頭突きしてなかったら…。

「ほい、出来た」
「あっ、りがとうございまし、た」
「何どもってんの、ほら次顔な」
「え、」

坂田さんの手がわたしの顎に触れ、お互いの顔が向き合う。坂田さんに触れられてる部分からどんどん顔全体が熱くなっていった。

「あのっ顔なら自分で」

「は、い」
「アレだ、今日言ったことは全部本気だから」

消毒液を脱脂綿に湿らせながら、坂田さんは独り言のように呟いた。坂田さんは自分の怪我には無頓着なのに、わたしの頬に脱脂綿を当てる手付きはとても優しい。

が望むんなら、ずっとここにいれば良い」

坂田さんはそう言ってにやり、と笑ってみせた。

「なんか?俺に婚約者がいるって勘違いしてひとりで突っ走っちゃったみたいだけどォ?」
「そ、それはだって」
「もしやアレですか?ヤキモチってやつですか?」
「ちっ違います!」

わたしは思わず立ち上がった。相変わらず坂田さんはにやにやしながらわたしを見ている。ヤキモチとか、そんな青々としたものじゃなくて!なんていうか、良く考えてみたらあの女の人の言う通り、確かにわたしは坂田さんのことほとんど知らなくてショックだったっていうか、わたしみたいな普通の女じゃ釣り合わないとか、色々好き勝手言われてちょっとむかついたっていうか。視線をうろうろさせながら正直な今の気持ちを吐き出す。坂田さんは自身の口元を手で押さえながら立ち上がった。なに笑ってるの!

「だからヤキモチとかそんなんじゃなくて、く、悔しかっただけです!」
「…ちゃんさ」
「なんですか」
「それをヤキモチっていうんじゃないの?」
「だから、違」
「つまり、もっと俺のことを知りたい、俺と釣り合うようになりたいってことなんじゃないの、違う?」
「違」
「わないよなァ」
「な、なんで追い詰めるんですか!」
「だってがどんどん後ろに下がるんだもーん」

いつの間にかわたしの後ろには壁、目の前には坂田さんというサンドイッチ状態。寝巻きから覗く坂田さんの鎖骨にはたくさんの古傷のようなものが見えた。今は薄くなっていてそんなに目立つものではない。ほら、わたしはこの人のこと何も知らない。。頭上で名前を呼ばれ、仕方なく顔を上げると先程のにやけ顏とは打って変わって真面目な顔の坂田さん。今日、キスされそうになった時のことを思い出し慌てて目を逸らす。

「ま、俺も同じなんだけど」
「同じ…って?」
「だから、」

「…ん~?二人ともまだ起きてたアルか」

襖が開いて、押入れから顔を覗かせた神楽ちゃんが欠伸をこぼす。まるで遠足前日の小学生みたいネ。そう言いながら彼女が寝ぼけ眼でスタスタとトイレへ歩いていくのをわたしと坂田さんは黙って見送った。時計に目をやると、もう日付けは変わってしまっている。

「…寝るか」
「だから、何ですか坂田さん」
「秘密」
「…意地悪」
「一つ知れたなァ、俺のこと」

ほら、怪我人はさっさと寝る!坂田さんはそう言ってわたしの手を掴むと寝室へと引っ張って行った。少しは慣れたはずの二組並べられた布団が何だか恥ずかしい。んな心配しなくても怪我人に手出したりしねーよ。坂田さんはそう言いながら襖を閉めた。いや、手出さない以前に、わたしの手離さないじゃないですか。神楽ちゃんがトイレから戻ってくる足音が聞こえて、少しだけどきりとする。

「坂田さん、手」

坂田さんを見上げたそのとき。神楽ちゃんが押入れをしめる音が聞こえて、坂田さんの唇とわたしの唇が重なった。それはあっという間に離れて、すぐに坂田さんの呼吸がわたしの唇にかかる。

「…へ」
「続き、昼間の」
「って、手出さないって…!」
「手は出してねーけど?」

ぱっと坂田さんがわたしの手を離したので、わたしは慌てて自分の布団に潜り込み頭まですっぽり毛布を被った。坂田さんの押し殺した笑い声が少しだけ聞こえてくる。うわー、うわー!キス、してしまった。ぎゅう、と強く目をつむる。顔が尋常じゃないほど熱い。


「……」
「電気消すぞー」
「…オヤスミナサイ」
「…おう」



いびつがふたつ



だから、俺ももっとのことを知りたいし、と釣り合うようになりたいって思ってんだよ。

(「…って言うタイミング逃したままキスしてしまったァァァ!」)
(「キキキキキスされちゃったどどどうしよう」)



(20140622)