今現在、わたしは不思議な状況下に置かれている。元を正せばわたしがこの世界に存在していること自体不思議な状況なわけだけど。わたしの目の前ではガタイの良い男性が土下座している。わたしに向かって。その隣では黒髪の、失礼だけど目つきの悪い怖そうな男性が不機嫌そうに煙草をスパスパと吸っていた。
わたしはあの後総悟くんに言われた通り、真選組屯所という場所を訪れていた。すぐに隊士の方に頬や腕の傷の手当てをしてもらい、その後案内された部屋に入るとすでに男性は土下座をしていて、黒髪の男性は煙草を吸っていた。あの、と声をかけると、土下座をしていた男性が大声を上げた。
「ほんっっっとーーーに!!申し訳無ァい!!」
あまりの大声に驚く。
「我らが真選組!市民の皆様をお守りするのが役目なのにも関わらず…建物を破壊してさらに貴女様のような女性の顔にまで傷をつけてしまうとはァァァ!面目ない!!」
「ええと…はい…」
何と答えれば良いか分からず、とりあえず返事だけする。この人、さっきからずっと畳におでこを擦り付けていて顔が見えないんだけど、何となくどこかで聞いたことのある声をしている。そしてどこかで見たことのある体型に髪型。あの、顔を上げてください、という前に、隣の男性が舌打ちをしてわたしを睨み付けた。
「今回はウチの隊士が迷惑かけた、それは謝る…が、訴えるとかそういうことを考えてるんなら止めておけ」
「え、訴える…?」
「ちょっとトシィィィ!そういう口の利き方はやめなさい!!」
「…あ!」
ずっと土下座をしていた男性がようやく顔を上げ、わたしは声を上げた。二人の視線がわたしに向けられる。
「あの、あなたもしかしてお妙ちゃんの…」
「え!?お妙さん!?ってあァァァァ!あの時お妙さんと一緒にいたァァァァ!」
「近藤さん、うるせェ」
「オイ山崎ィィィ!あのっアレ、俺がこっそり隠しておいた高級茶菓子を持って来いィィィ!」
「近藤さん誰も知らねェよ、アンタが隠してる茶菓子なんて」
それからしばらくして落ち着いた(隣にいた土方さんという副長さんによって無理矢理落ち着かされた)近藤さんに詳しい説明を受ける。あの時のお客さんは桂小太郎という有名な攘夷志士で、指名手配犯だったらしい。それを聞きながら、正直あの男性よりも白いペンギンの方が気になったけれど、話が拗れるのは嫌だったので何も聞かないでおいた。で、その桂小太郎を捕まえるために、ああなった…とのこと。桂さん、根はそんなに悪い人じゃないような気がするけど。
「あの…」
「あァ?」
「…いや…」
ぎろり。…怖い。
「もうトシ!ちゃん怖がってるでしょーがァ!」
「ったく、分かった分かった、ほらサービスしてやっから怖がんな」
近藤さんが先ほど出してくれた苺のタルトの上に大量のマヨネーズを絞り出す土方さん。これが、真選組の、サービス…。わたしは深呼吸して話を続ける。
「…わたしはそんな大した怪我はしてませんから訴えたりだとか、そんなことは考えてません、でも」
「でも、何だ」
「あそこはわたしの大切な人たちのお店とお家だったんです、だからその…」
「それなら心配ねェ」
あの団子屋の修復や、経営してた夫婦の当面の生活に係る費用はこちらから出させてもらう。もう既に本人たちの了承は得てる。そう言って土方さんは煙草の灰を灰皿に落とした。
「モダンな感じにしろだとか、四階を作れだとか注文のうるせェ夫婦だぜ、ったく」
「ちゃんのことすごく心配してたよ、一応大丈夫とは伝えておいたけど」
「そうですか…ありがとうございます」
笑ってお礼を言う。ある意味、二人がいないときで良かった。お店は大変なことになっちゃったけど、とにかくあの二人に怪我が無くて良かった。わたしはほっとして、フォークを手に取り苺のタルトを一口ぶんだけ口に運んだ。なぜか白いマヨネーズが見えていなかった。
「お、お前…!」
「…うっ」
「すいやせん近藤さーん、桂取り逃がしやしたァ」
ふわりと苺の風味を感じたのは一瞬で、あっという間に口の中がマヨネーズでいっぱいになる。思わず口を押さえた瞬間、襖が開いて入って来たのは総悟くん。きょとん、とわたしを見つめる。
「なにに犬の餌食わせてるんでさァ死ねよ土方コノヤロー」
「犬の餌じゃねェ、それにこいつは自ら食ったんだこいつはマヨラーだ俺の仲間だ」
「なんだ、総悟とちゃんは知り合いだったのか」
「ええ、まあ…」
お茶で口の中の油を流し込む。わたしの隣に総悟くんが座った。
「総悟くん真選組だったんだね、知らなかった…さっきは助けてくれてありがとう」
「言っておくがお前の店にバズーカぶっ飛ばしたのはそこのアホ総悟だぞ」
「…そうなの?」
「すいやせん…俺は撃ちたくなかったのに…そこの土方副長が無理矢理…」
「総悟てめェ!人に罪なすりつけてんじゃねェェェ!」
「そんなことより、犬の餌食うんだったら俺の犬になった方が色々と楽しめますぜ」
「コラ総悟ォ!お妙さんのご友人にそんな変なもの見せないの!めっ!」
土方さんは刀を抜いて総悟くんに切りかかろうとしてるし、総悟くんはそれをひょいひょい避けながらまたあの時と同じ首輪を手にしているし、近藤さんは相変わらずお妙ちゃんラブオーラを出しているし。真選組って一体何なんだろう。目の前のドロドロになっている苺タルトをぼうっと眺めていたそのときだった。外が一気に賑やかになる。
「…ん?何だか外が騒が」
「お邪魔しまァァァす!!」
「ギャアアアアア!!」
近藤さんが襖に手をかけた瞬間、急に何かが飛び込んできて襖を突き破り近藤さんが襖の下敷きになった。飛び込んで来たのは、白くてふわふわしている、
「定春くん…?」
それと、
呼吸よりもあなたを選んだ
「うおい!万事屋てめェ何してくれてんだコラ!」
「いやー最近ウチのペット襖突き破るのがブームらしくってさァ」
「どんなブーム!?」
「坂田、さん…」
目があった。
(20140428)