この、夜中にも関わらず赤々と輝くかぶき町は、アイツにとっては知らねェ街なんだよなァ。

「ったくよ、俺の何がいけないわけ?俺なんでこんなにバイトクビになってばっかなの?それにさーいくら景気が悪いっつったてよォ、そんな選り好みしてるわけじゃないんだからさーそろそろ定職見つかっても良くねェ?ってアレ?銀さん聞いてる?」
「聞いてる聞いてる、グラサンが最近曇るって話だろ?良いんじゃねーの、どうせ周りからじゃ見えてるか見えてないかすら分かんないんだしィ?」
「何ひとつ聞いてねーじゃんんん!」

目の前にいる親父が苦笑をこぼしながら俺のコップに焼酎を注ぎ足す。今日は、長谷川さんが珍しくパチンコで当てたらしく飲みに誘われたので可愛い女の子達のいるお店かと思い期待して行ったらいつもの屋台。それについてぐちぐち文句を言い続けていたら、結構飲みすぎてしまったらしい。アイツの世界には屋台ってあったんだろうか。って、気付けばのことばっかりだ。コップを片手に握りしめたまま、頭をがんがんとテーブルに打ち付ける。

「何だよ銀さん、今日ちょっと変じゃね?まあアンタはいつも変だけどさ」
「…長谷川さん、アンタ既婚者だったよな」
「え?ああ、まあね?」
「年頃の女と、どーやって一緒に暮らせば良いワケ?」

ええええええ!?長谷川さんがガタン!と勢い良く立ち上がったせいで箸が地面に落ちた。グラサンコノヤロー。

「ちょっと銀さん!もしかして年頃の女と一緒に…!ってなに、チャイナ娘のこと?」
「ちっげーよ、神楽はまだガキだガキ、もう一人増えたんだよ」

ええええええ!?再び立ち上がる前にグラサンの頭をグーで殴る。

「なに!その子可愛い!?」
「あー」

…可愛い、と思う。少なくとも俺は。そっかあ、銀さんにもとうとう春がねェ。ってなんだコイツ。

「まずどうやって知り合ったわけ!?」
「えーと、なんだったかな」

そうそう、桜の木のとこで初めて会ったんだ。

「俺がさァ、猫だったんだよ」
「ちょっと何それェェェ!?すっげェいかがわしいじゃん!いかがわしいプレイじゃん!どこの店だよ!」
「はァ?店じゃねーよ外だよ」
「野外!?」

あいつが俺の上に落ちて来て、目を真ん丸くさせたのが全ての始まりだ。桜の花びらがふわふわ散ってて、あ、綺麗だ、とか思って。ま、そのあとすぐぶん殴られて星が見えたんですけど。

「ま、まあ出会いは置いといてアレだ、どういう子?」
「どういうって、んー」

一言で言うなら真面目。居候させてもらう身ですからなんでもします、とか言って飯とか洗濯とか掃除とかぜーんぶやってくれてる。俺のパンツ畳んでるときとかちょっと気まずいんですけど銀さん。それ以外は全く文句のつけようがない。最初は何をするにも遠慮してばっかでカッチコッチだったけど、最近は生活に慣れてきたのかよく笑うようになったし柔らかくなった。泣いてるとこなんて、最初の日以来見ていない。だけどもし俺の知らないところで泣いてたら。そう考えるとイライラする。泣くならせめて俺の前で泣いてほしい。たまに不安そうな表情を浮かべながら俺を見ることもあるけど、頼ってもらえてるみたいで悪い気はしねェよ。ただ、にはいつも笑っててほしい。あ、そういや今だに万事屋に帰ってきたときに「ただいま」じゃなくて「戻りました」って言うのがなーんか気に入らねェんだよな…っつーか!一番気に入らねェのはアレだよ、なんで俺だけ名字呼びなわけ!?新八と神楽のことは名前で呼ぶくせにさァ!主人公の立場なくね!?

「ちょ、銀さん?顔こえーんだけど」
「ああん?」
「だーかーらー、どういう子なのさ、その子!っつーかどこの子?」
「んあー、外から来た、って感じ」
「ええ!?天人!?」

そうだ、俺、アイツを元の世界に戻してやんなきゃなんねーんだった。

「えっちょっまじ、頭から触覚とか生えてるわけ!?」
「触覚だァ?」

そういやこの間、お妙ちゃんが選んでくれたの、とかなんとか言って大喜びしてたっけ。あの、なんだったっけ女がする髪飾り。

「ホラ、なんかこう…頭の後ろに一本」
「生えてるんだ!一本タイプなんだ!しかも後ろ!?どういう構造!?」
「神楽もそれ気に入ってたんだよなァ」
「え!?あのチャイナ娘まで手懐けちゃってるの!?すげーじゃん!」

あれ、似合ってたな。少しだけぬるくなってしまった焼酎を身体の中に流し込む。隣で長谷川さんが何やらブツブツ呟いていたが気にしないでおいた。つーか何の話してたんだっけ?

「とにかくさァ、俺はそういうタイプとは付き合ったことねーからアレだけど、押すときは押して引くときは引く!結局オッサンの恋愛もそんなもんだぜ銀さん」
「誰がオッサンだコラ俺は身も心も少年だからァ」
「一応家にはチャイナ娘もいるんだし、その辺は…うまく、さ!あ、でも野外はやめとけよ!」

なんだ、野外って。

いつもより興奮していた長谷川さんを置いて俺は先に家路についた。なんとなく空を見上げると、星が何個も輝いてるのが見える。ああ、せめての暮らす世界があの星のどこかだったら良かったのになァ。そしたらが帰っても、…帰っても?なに?帰っても、って。

と出会った桜の木の場所は何度も訪れた。ちゃんとあの日と同じように、その下で昼寝してみたりもする。も空いた時間にたまに足を運んでいるらしく、遭遇することもあるがお互い何も変わったことは起こらない。その度にアイツは言うんだ、だめでしたね、って。眉をちょこっと下げて、困ったような、でも少しほっとしたような、そんな感じで。俺はいつも黙って頷くだけ。そんな俺のことをはどう思ってるんだろう。やる気ねーなこいつ、とか腹ん中じゃ思ってんのかな。違ェよ?銀さんはいつもやる気満々だよ?でも、でもな。

階段を一段一段登って行くと、地面と離れた分少しだけ飛んだ気分になれる。顔をあげると、そこにはなぜか、笑顔のが立っていた。

「おかえりなさい、坂田さん」

。俺は、お前に、あんな顔してだめでしたね、なんて言ってほしくないんだ。そのためにはお前を早く元の世界に帰してあげなきゃいけないのに、だめでしたね、って言われる度に、もうこっちでずっと俺らと一緒に暮らせば良いじゃん、って言いそうになっちまうから、黙って頷くことしか出来ねェんだ。そう言っても、お前は笑ってくれねーよな。酒のせいで思考回路がめちゃくちゃだ。フラフラする俺の腕をが掴む。なァ、。お前も俺と同じようなこと、考えててくれねーかな。ちょっとでも帰りたくないって気持ちがお前の中に芽生えてて欲しい、って思うんだ。



それでも夜に沈む



、ごめんな。



(20140411)