早いことに、こちらの世界にやってきて一週間が経った。一つ分かったことがある。
「あー…糖分足りねーな、新八ィ、お前ちょっとチョコ買ってこい」
「良い加減にしてくださいよ銀さん、アンタ最近糖の匂いがぷんぷんしますよ」
「新八、加齢臭の間違いじゃないアルか?」
「神楽てめっ俺はまだそんな歳じゃありまっせーん!」
「っていうかチョコ買うお金すら危ういんですよ僕ら」
「え?なんで?」
「依頼が来ないからに決まってんだろーがァァァ!」
そう。この万事屋に依頼が入るのは本当に稀らしい。少なくとも、というかわたしが「元の世界に戻してほしい」と依頼した以外に依頼はきていないようだ。そのわたしの依頼すら何の進展もない。あれから坂田さんの夢に入り込むこともなく、相変わらずわたしは居候のままだ。洗濯物を畳みながら、今日の夕飯は何にしようか。そんなことを考えていたとき、万事屋の電話が元気よく鳴り出した。新八くんが勢いよく電話に飛びつく。はい!万事屋です!
「銀さん銀さん!依頼の電話ですよ!」
「あー…断っといて」
「どんだけマダオなんだお前ェェェ!」
もう一つ分かったこと。坂田さんは基本的にやる気がない。
「すみませんねェ、大工雇うとなると金がかかるもんだから」
「オイオイ、うちは大工よりも値がはるぜ?」
「ちょっ銀さん!いえいえ、僕らに出来ることなら」
万事屋に舞い込んできた一つの依頼。それはかぶき町の大通りにあるお団子屋さんの屋根の修理。なんとなくわたしもついて来てみたが、屋根の修理となるとわたしは役不足なようだ。坂田さんと新八くんはあっという間に屋根の上へ消えていった。暇そうにしていた神楽ちゃんは定春くんと散歩に行ってしまったので、わたしは手持無沙汰で店頭の椅子に腰かける。やはり大通りにあるお店だからか今日が休みだからか、お客さんの出入りが激しい。店内にはテーブルが二つ、そしてわたしが座っている店頭の椅子。そんなに座る場所は多くないけど、持ち帰りのお客さんと重なったりしたときはそれなりに忙しそうだ。それにこのお店、どうやらあの依頼人であるご主人とその奥さんとの二人で経営しているらしい。わたしは立ち上がってお茶を注いでいる奥さんに声をかけた。
「あの、」
「ああ、万事屋さん、今日はごめんねえ」
「いえ、わたし何もしてないですし…良ければ中の方お手伝いしましょうか?」
奥さんはお登勢さんと同い年くらいだろうか。皺の寄った目元が驚きからか少しだけ伸びる。額にはうっすら汗が滲んでいた。
「いいんだよ、今日は屋根の修理で来てもらったんだから」
「屋根の修理は、男性陣がやってて…わたし今暇ですから」
「じゃあ…お願いしてもいいかねえ!」
わたしがはい、と返事する前に奥さんはせかせかとレジの下に置いてあった箱から白いエプロンを取り出した。実はバイトさんが急に辞めちゃってさ、困ってたんだよ!ホラこの辺、都会だし、ウチみたいな古臭い団子屋より洒落てて時給の良い働き口なんてたくさんあるだろ?アンタみたいな若い子はさ、みーんなそっちいっちゃうの!奥さんはさっきまでの遠慮が嘘だったかのようにぺらぺらと勢い良く喋り出し、ささっと素早い動きでわたしにエプロンを着せた。奥さんは中を、わたしは販売を。お団子の種類を声に出しながら覚える。ああ、なんだかわくわくする。もともとこういう販売や接客の仕事は嫌いじゃない。天人がお客さんとしてやってきたときは内心びくびくしているけど、この前お妙ちゃんが言っていたとおり悪い天人はいない。わたしは順調に仕事をすすめた。
それからしばらくして。屋根から梯子がおりてきて坂田さんと新八くんが降りてきた。
「あ、終わりましたか?」
「あれ、さんその格好…」
「暇だったから、お手伝いさせてもらっちゃった」
「お前、そういう風にしてるとあれだなァ」
「え?」
「…いや」
「おや、中の方も手伝ってもらっちゃって悪いねェ」
二人の後に降りてきたご主人がわたしの格好を見て笑いながら汗を拭う。屋根の修理は終わったらしく、ちょうどお客さんも引いた時間帯だったのでわたしたちはお茶とお団子をご馳走になった。お団子は見た目通り、美味しい。神楽ちゃんいなくて残念だったなあ。そんなことを思っていたのがバレたのか、帰り際に奥さんがお団子を何本が包んて渡してきたのでわたしは驚いて首を振った。
「良いです、依頼料は頂きましたから」
「いいのいいの、これどうせ余るやつだから」
「貰っとけ、俺たちだけ食ったって知ったら神楽が家の中破壊しかねないぞ」
「それで良かったら、なんだけどねぇちゃん」
ウチでバイトしない?万事屋さんが暇なときでいいからさ!そう言って奥さんはわたしの二の腕をぱしんと叩く。またまた驚いた、けれど良い話かもしれない。万事屋の仕事が暇なことを知ってから考えていたことだった、外に働きに出る、ということは。そうすれば、その分のお金をわたしの依頼料、居候料に回せる。なんとなく隣の坂田さんに目をやる。なぜか、困ったときには坂田さんを見てしまう癖がついてしまっていた。
「坂田さん、わたし」
「良い話じゃねーか」
「そうですね、万事屋が暇なときって言ったら毎日になっちゃいますけど」
「うっせーダメガネ!とにかく、やりたいと思うんならやっとけ」
「…ありがとう」
わたしは二人に笑いかけ、ご主人と奥さんによろしくお願いします、と頭を下げた。
夜、家に帰った神楽ちゃんにお団子を渡し、アルバイトすることになった旨を話すと「毎日団子が食べれるネ!」と口いっぱいにお団子を頬張って喜んでいた。あ。わたしは思い付いて坂田さんに声をかける。
「そういえば坂田さん、お団子屋さんで何かわたしに言いかけませんでしたか?」
「んあ?そーだっけ?」
「屋根から降りてきたときに…」
「あー、忘れたわ」
「…?」
ワンシーンの余白
(「お前、そういう風にしてるとあれだなァ、最初っからこっちの住人みたいだな」)
(20140401)