「ふう…」
あれから万事屋の冷蔵庫にあった食材でオムライスを作って振る舞うと、みんな(特に神楽ちゃん)美味しい美味しいと平らげてくれた。自分が作った料理を誰かに食べてもらうのは少し新鮮。柔らかい湯気が四つ出ているのがなんだか面白く感じられた。食べている途中わたしは口元が緩みっぱなしだったと思う。神楽ちゃんはわたしと一緒にお風呂に入った後、いつも押し入れで寝ているらしくあっという間に眠りについてしまった。定春くんも部屋の隅で丸まってすうすういっている。
坂田さんから借りた着流しはだいぶ大きい。わたしはソファに座って裾をめくり、自分の左足首をくるくると回した。元々そんな酷い捻り方ではなかったのだろう。精神的にも落ち着いた今、左足の痛みは小さいものとなっていた。念のため、新八くんがくれた湿布を貼っておく。
「なんだかなあ、」
誰もいない部屋で呟いた言葉は行き場を無くす。まるでさっきまでのわたしのように。今日一日で色んなことが一気に起きすぎて、うまく頭がついていかない、というのが今の正直なわたしの気持ちだった。流されている。いや、流されるしか今のわたしに出来ることはない。人の好意には甘えとけという坂田さんの言葉が頭をよぎる。それでも、流されるしか、甘えることしか出来ないのがもどかしかった。かと言って帰る場所もなく。ああ、もう。ソファの背もたれによりかかり、頭を乗せる。と、いつの間にかお風呂から上がっていたらしい坂田さんが後ろに立ってわたしを見下ろしていた。
「う、わあっ!」
「んなびびんなって」
今日一日で何回驚いてんだろーねーさんはー。そう言葉を伸ばしながら、坂田さんは台所へ向かう。その間にわたしはめくっていた着流しを元に戻し、坂田さんはコップ二つといちご牛乳と書かれた紙パックを手に戻ってきた。たぷたぷ、とコップにつがれたそれが、わたしと坂田さんの目の前に置かれる。疲れたときは糖分摂取!これ我が家の教訓だからね。坂田さんはそう言って、コップに入った淡いピンク色をぐいっと飲み干した。わたしも一口だけ口に含む。甘いいちご味が口の中にふわりと広がった。
「坂田さん」
「んあ?」
「色々と、ありがとうございます」
正直なところ、わたし頭の中いっぱいで、流されることしか出来なくて、参ってるんですけど。コップをことん、とテーブルの上に置く。
「…まあ、そりゃそーだろな」
「いつ戻れるかもわかんないし」
「んー」
濡れて余計くるくるになった銀色の髪の毛をわしゃわしゃと坂田さんはタオルで拭いた。見れば見るほど、見事な天然パーマだ。本人はどうやら気にしているようなので言わないけど。
「良いんじゃね?」
「…え?」
「とりあえず流されとけば」
そしたら必ずどっかに流れ着くだろ。
「でも」
「今の、この現状を楽しめるようでなけりゃ戻れるもんも戻れねーよ」
「楽しむ…」
「幸いこの街にはおもしれーやつがたくさんいるからよ」
心配すんなって。坂田さんがコップにいちご牛乳を注ぐのをわたしはぼうっと眺めた。なんでだろう、坂田さんの言葉は、不思議とわたしを安心させる。ぶらぶらとあてのないようで、しっかり芯のある言葉。みんなみんな、今日初めて会った人ばかりだ。みんなみんな、わたしと初めて会った。面白いかどうかは置いておいて、みんな優しいことに間違いはない。わたしは坂田さんと同じようにいちご牛乳を飲み干した。不安なことばかりだけど、みんなと一緒なら楽しめるかもしれない。そんな気持ちがすとんとわたしの心の中に降りてきた。意外とわたし、図太いのかも。思わず笑うと、坂田さんも笑った。坂田さんは欠伸をしながら背伸びをする。
「んじゃ寝るかァ、子どもはさっさと寝ないとな」
「子どもって、わたしもう22ですよ」
「…マジでかァァァ!!」
手暗がりを僕に半分
(ちょ、俺ソファで寝るわ)
(え?布団二つあるんですよね?並べて寝れば…)
(イヤイヤイヤ)
(さ、坂田さん?)
(イヤイヤイヤイヤ!!)
(うっさいネさっきからァァァ!!!)
(20140328)