「あっ」
「どうしたアルか?」
「えっと、わたし何も持ってなくて」
「言っとくけどマジで俺じゃねーかんな荷物取ったの」
「着替えとか、何もない…」
そんな訳で、今わたしと三人はなぜか万事屋の下にある「スナックお登勢」というお店に来ています。聞けば、経営者のお登勢さんは二階の万事屋の大家さんでもあるらしい。みんな着物姿なのに、スナックやコンビニ、スーパーといった建物があるのは何だか慣れない。中途半端に近代的、というか。
「っつー訳でババア、着物よこせ」
「っつー訳でってアタシは何も聞かされてないよ銀時」
お登勢さんはタバコを吸って白い煙を宙に吐き出した。わたしはカウンター席に座って、その消えていく煙を眺める。何だか申し訳ない気持ちでいっぱいだ。今の自分の格好といえばジーンズにカットソーというシンプルなもので、この世界でしばらく生活するとなるとまず着物が必需品となる。ってことで、とりあえずこのお登勢さんのお世話になろう、というのが坂田さんの考えらしい。フー、ともう一度お登勢さんが煙を吐いて、わたしを見た。目が合って、思わずどきりとする。です、と名前を告げて頭を下げた。
「…ま、困った時はお互い様だァね」
アンタ、ついといで。お登勢さんはそう言うと、お店の奥へと入って行ってしまった。何となく不安になり、隣の坂田さんに目をやる。坂田さんが心配すんな、という表情を見せたので、わたしは席を離れてひょこひょことお登勢さんへ着いて行く。後ろの席では神楽ちゃんと新八くんが夕飯のメニューについて大声で口論していた。
お店の奥へ進むと、小さな部屋がありそこでお登勢さんがごそごそと箪笥の中から数着着物を出していた。
「あのう…」
「ん?」
「なんかすみません、お金は…何とかして後から払いますので」
「あーいいよいいよ、アタシが昔着てたやつで古いし、箪笥の肥やしになるよりかマシだからねェ」
「でも、」
「アンタ、見慣れない格好だけどどこから来たんだい」
「えっ、と…ちょっと、遠くから…」
「…訳ありって感じだね」
どこから来た、と問われるとちょっと困る。わたしが返答に困っていると、お登勢さんはそれ以上問い詰めることなく着物を広げてみせた。黒や薄い紫の無地の着物。お登勢さんはわたしを見て笑った。
「身長はアタシと変わらないみたいだし、まァ着てやってくれ」
「ありがとうございます」
お登勢さんは何も分からないわたしに、着物の着方を一通り教えてくれた。着物は羽織ると少し古い匂いがして、何だかそれが懐かしく感じられる。お店の方からお腹減ったアルー!!という神楽ちゃんの叫び声が聞こえてきた。わたしとお登勢さんは目を合わせて苦笑いする。
わたしがお登勢さんから頂いた着物を持ってお店に戻ると、坂田さんがお?と首を傾げた。
「何だ、着てねェの」
「はい、勿体無いので明日から着ます」
「勿体無いってババアのお下がりだろ」
「銀時ィ、アンタ先月の家賃まだだったよねェ」
「いっやー良い着物貰えて良かったじゃないのちゃーん」
坂田さんは態度をころっと変えてわたしの肩をがっしりと抱く。え、家賃?先月?坂田さんを見上げると、ねっちゃん!と汗を流しながらわたしに同意を求めている。はい、と頷くと、ため息をついたお登勢さんは咥えていた煙草を灰皿に押し付けて坂田さんの名前を呼んだ。
「銀時、先月分の家賃は払わなくていいよ」
「わーったよ、持ってくりゃいーんだろ持ってくりゃってええええ!?」
「お登勢さんマジですかァァァ!」
「太っ腹アル!でも明日大雨になってしまうネ!桜が散ってしまうヨ!」
お登勢さんの突然の発言に、坂田さんだけでなく神楽ちゃんと新八くんも大声を上げて驚いた。わたしも驚く。でも一番驚いていたのは坂田さんだったようで。
「オイオイ、どういう風の吹き回しだァ?いつも内臓売ってでも家賃払えっつーババアがなんだ?菩薩気分ですか?」
「違うよ、その家賃分をその子に使ってやりな」
「えっ!?」
着物以外にも物入りだからねェ、年頃の女は。
「でも、お、お登勢さん」
「言っただろ?困った時はお互い様、ウチの店が忙しい時はアンタに手伝いにきてもらうからね」
「はい…!」
今月分はいつも通り家賃貰うからね。お登勢さんはそう言ってにやりと笑い、もう一本の煙草に火をつけた。
「じゃあ明日はの買い物にワタシが付き合うネ!」
わたしをおぶって万事屋への階段を上がる神楽ちゃん(坂田さんがわたしをおんぶして戻ってきたとき神楽ちゃんがセクハラ天パ!と大騒ぎしてこうなった)がわくわくしたように言う。坂田さんがそんな神楽ちゃんの頭をぺしんと叩く。
「オメーはついでに酢昆布買おうって魂胆だろーが」
「お登勢さん、やっぱ良い人ですね」
「本当、良かったのかな…」
神楽ちゃんにおろしてもらい、わたしはやっぱり申し訳ない気持ちでいっぱいで。思わずそう呟くと、坂田さんが今度はわたしの頭をはたいた。
「人の好意には甘えとけって」
「そう、ですね」
「…つーか、お前大丈夫なの」
「え?」
「あのババアは店が忙しかったら呼ぶぞ、冗談抜きで」
「大丈夫です、わたし以前ファミレスでバイトしてましたから」
「いやでもアレだよ?スナックっていったらお前、」
「ー!早く来るネー!」
「あ、はーい!」
神楽ちゃんがは料理得意アルか!?と目を輝かせて聞いてくる。そっか、さっきお腹すいたって言ってたもんな。居候させてもらう身だし、炊事洗濯掃除くらいはわたしがやろう!わたしはそう決心しながら万事屋の台所へと向かった。
あした目が覚めたら
「…心配性ですね、銀さん」
「うるせー」
(20140328)