「こんないじらしい女の子を無理矢理別世界から引っ張ってくるなんてまさに外道ネこの腐れ天パァァァ!!」
「だァァァ!てめーが入ると余計話がこんがらがるんだよ!」
「つまりさんはなぜか銀さんの夢の中に入り込んでしまい、そのままこっちの世界に来てしまった、ということですね」
「銀ちゃんの夢の中に入り込むなんて肥溜めにずっぽり入り込むのと大差ないネ」
「よし神楽お前今月給料無しな」
「今月どころか先月分も貰ってないアル!」
「違ェェェ!先々月から払ってません!」
「死ねェェェ!」
「すみませんね、うるさくて…」
「…いえ…」

あれから坂田さんはわたしが泣き止むまでずっと背中をさすってくれて、わたしは再び坂田さんのお家兼事務所である万事屋へ戻っていた。目の前では神楽ちゃんと坂田さんがお互いの耳や頬を引っ張り合ったりと格闘しており、その隣で新八くんが丁寧にわたしの話を紙にメモしていた。

坂田さんの背中におぶられてここへ戻ってくる途中、わたしはこの世界のこと、主に天人というものについて教えてもらった。別の星からしょっちゅう天人と呼ばれる宇宙人がやってくるのならば、わたしのように地球人が別世界からやってくるってこともありえるんじゃないか。そう仮説を立ててみるが、坂田さんの返事はどうだかなァ、と微妙なもので。ま、来たからには帰る方法くらいあんだろ。坂田さんのその言葉を最後に、わたしたちは黙り込んでしまった。

「ちょっとあんたらァ!さんドン引きしてるでしょーがァァァ!」
!わたしに任せておけば安心ネ、ちゃんと肥溜めから救い出してみせるアル!」

神楽ちゃんがわたしの隣に座り、わたしの両手をぎゅっと握る。白くて小さな、手…?

「いっ、いだだだだ!!」
「あっ加減するの忘れたアル、てへっ」
「肥溜めから救い出す前に殺す気かオメーは」

一瞬、物凄い力で握られたわたしの両手。な、なんて怪力…!離されてもジンジンとする両手を眺めていたら、坂田さんが神楽ちゃんを指差し、さらっと

「こいつも天人だから」

と言ってのけた。

「えっ、ええ?神楽ちゃんが!?」
「夜兎っていう天人ネ、出稼ぎで地球に来たって設定アル」
「せ、設定?」
は、…天人怖いアルか?」

先ほどまで元気ハツラツと喋っていた神楽ちゃんが急に不安そうな表情を見せる。わたしはしばらく考えて、ううん、と首を横に振り、今度はわたしから神楽ちゃんの手を取る。

「正直天人はまだ怖いけど、神楽ちゃんは大丈夫、怖くないよ」

わたしが目覚ますまで傍にいてくれたんだよね。ありがとう。お礼を告げると神楽ちゃんの顔が一気にぱあっと明るくなった。可愛いなあ。再びがしっと両手を掴まれ一瞬どきっとするが、今度は加減してくれてるのか痛くはない。

「このかぶき町のことはわたしが全部教えてあげるネ!これは酢昆布といって、この国の主食アル」
「へえ、酢昆布はわたしの住んでるとこにもあったけどあくまで駄菓子であって主食じゃなかったなあ」
「いや…、さん、騙されてます」
「っつーか話戻すぞ、今回の依頼はを元の世界に戻すことだ」

坂田さんの目が、その言葉と同時にきりっと凛々しくなる。そうだ、わたしさっきお仕事の依頼をしたんだった。新八くんも気合いを入れ直したように頷く。そうですね、さんも早く元の世界に戻りたいでしょうし。…そういえば、元の世界はどうなってるんだろう。わたしはあの時バイトに行く途中で、急にバイト一人が来なくなって確かにバイト先は少しは困っているかもしれない。けどそれ以外に、わたしがいなくなって…いなくなって、何かが変わるのかな。わたしのことを心配してくれるような人、いたかな。心の中のモヤモヤとした気持ちと格闘していると坂田さんが立ち上がってポンと手を叩いた。

「俺の夢の中から来たわけだから、帰るのも俺の夢から出て行く感じだと思うわけだ銀さんは」
「まあ、確かに…」
「ってことで試しに俺とが今日同じ布団で寝てみればぐはアっ!」
「アンタ珍しく目が輝いてると思ったら下ネタかァァァ!」
「破廉恥ネ!万死に値するネ!」
「ちょっ、冗談だって、」

神楽ちゃんの強烈なキックで床に倒れ込んだ坂田さんを、若い二人が足でひたすら蹴りまくる。わたしは止めるタイミングが分からず、一人ぽかんとその光景を眺めていた。

それからも、顔がぼこぼこになった坂田さん、新八くん、神楽ちゃん、わたしの四人での話し合いは続き、結局わたしはしばらくこの万事屋さんに居候させてもらうことになった。最初は遠慮したのだけれど、坂田さんのその提案に神楽ちゃんは大喜びだし、何しろ身元を証明出来るものもお金もない、となると部屋を借りることも難しいと新八くんに諭されたのだ。

「じゃあ…よろしくお願いします」
「おーよろしく」
「よろしくお願いします、さん」
「やったネ定春ー!家族が増えたアルよー!」
「あの、ずっと気になってたんですけど…」

わたしは思い切って、ずっと部屋の入り口でお座りをし、神楽ちゃんが抱きついている白いわんちゃんを指差した。

「この世界のわんちゃんは、みんなあのサイズで…?」
「…アレは規格外」



不可視も積もれば



(20140328)