久しぶりにお会いした煉獄様は、いつもと同じように見えてどこか困ったような顔で私に微笑んだ。軽く挨拶を交わした後、煉獄様が私に差し出してきたのは、しのぶ様に預けていた父の写真。私が話し出す前に煉獄様が「すまない」と頭を下げたので、私は口を開けたまま目を丸くした。


「れ、煉獄様?顔をあげてください」
「父には、聞けなかった」


普段よりも少し早口で、しかし歯切れよくそう告げた煉獄様を私は黙って見つめた。「聞けなかった」ということは、何か事情があるのだろう。私は写真を受け取ると、静かに「ありがとうございます」と呟いた。顔をあげた煉獄様は、少しだけ驚いているようだった。そんな煉獄様に、私は笑いかける。


「ただでさえ毎日お忙しいのに、写真を預けてしまって、ご迷惑でしたよね」
「そんなことはない!俺の方こそ、父に話を聞ければ良かったのだが…」
「…実を言うと、少しほっとしてます」


私の言葉に、煉獄様は軽く首を傾げた。お願いしておいてこんなことを言うのは失礼だろう。しかし正直に言うと、この写真を見つけてからまだ数日しか経っておらず、写真を見ても、父が鬼殺隊であったということに違和感しかなかった。また、父のことや父の最期について知りたいと思う反面、祖父が私に父の話をしてくれていなかったことも気になっていた。つまり、ずっと葛藤していたのだ。自分が知ってしまってもいいのか、という葛藤。


「それにしても、煉獄様はお父様とそっくりですね」
「む、そうだろうか!も少し、お父上の面影があるようだな」
「ふふっ、なんか写真の中の二人とも良い顔してて…うまく言えないんですけど、私の父が煉獄様のお父様と知り合いで嬉しいです」


写真を仕舞いながらそう言うと、煉獄様はしばらく何かを考えて、「うむ!」と頷き、大声でこう言った。


「不死川が君に惚れるのも分かる気がするな!」


一瞬だけ思考が停止する。固まっている私の肩を叩き、任務へ向かうと言って立ち去ろうとする煉獄様の羽織を慌てて掴んだ。


「れ、煉獄様?私と不死川様は決してそのような関係ではなくてですね」
「隠すようなことではない!彼は優れた風の呼吸の使い手だ!きっとのことも幸せにしてくれるだろう!」
「あの、私の話を」
「任務から戻ったら、一緒に飯でも行こう!」


腕を組んで快活に笑う煉獄様に呆気に取られたが、その勢いに飲まれ、こくんと頷いた。


「あれ??」
「あ…炭治郎くん」


煉獄様が立ち去った後、やってきた炭治郎くんがぼーっとしている私に不思議そうに話しかける。


「どうしたんだ、こんなところで」
「う、ううん、何でもない…怪我、良くなった?」
「ああ、お陰様で!」


そう言って笑う炭治郎くんは、確かに怪我は良くなったようだが、蝶屋敷での訓練が厳しいのか少しだけ疲れた顔をしていた。

そして、恐る恐る鬼に襲われた時のことを聞かれた。「すごく心配してたんだ」と私の手を握る炭治郎くんの手にはっとする。ゴツゴツとした豆だらけの手。私とそんなに歳も変わらないのに、たくさん辛い思いをしてきて、私よりずっと努力をしていることが分かる手だ。それでも彼は驕ることなく、目の前の相手のことを思いやることができる。少しだけ自分が情けなくて、恥ずかしくて、私はただ笑って「大丈夫だよ」と答えることしかできなかった。


「そういえば、風柱と恋仲だって聞いたんだけど」
「もう!やだ!」
「え!?」


いきなり大声を出して手を振り払った私に、炭治郎くんは相当驚いたようだ。


「みんなそのことばっかり…!ただの噂で、事実じゃないんだよ…」
「そ、そうなのか、ごめん」


私の反応にあわあわする炭治郎くん。人の噂も七十五日と言うが、七十五日を過ぎるまでが長すぎる。私は額に手を当ててため息をついた。不死川様は気にしてないし迷惑でもないと言っていたけど…私が過剰に反応しすぎなんだろうか。かと言って、否定をやめてしまう訳にもいかない。


「風柱…俺はちょっと因縁があるんだけどさ」


炭治郎くんの言葉に顔を上げる。彼は目を閉じて少し苦い顔をしていたが、うん、と頷いた。


が好きになるってことは、いい人なのかもな!」


まっすぐ綺麗な目をこちらに向けて、にこりと笑ってそう言う炭治郎くんに、思わずその場で転けそうになる。


「だから、違うって言ってるでしょ」
「風柱と恋仲じゃないってのは分かったけどさ」
「うん、そう」
「でも、は風柱のこと、好きだよな?」


予想だにしなかった台詞に、私は驚きのあまり咳き込んでしまった。炭治郎くんが慌てて背中をさすってくれる。


「なっ、すっ…」
「だ、大丈夫か?」
「そ、そりゃあ、嫌いではないけど、別に好きとかじゃ、」
「そうか?なんか匂いでそう感じたんだけど…」


俺の勘違いかな?と困った声を出す炭治郎くんをよそに、私は不死川様のことを考えた。最初は、ただただ怖くて苦手だった不死川様。私のことを嫌っていると思っていたけど、私の命を救ってくれた。私が大泣きした時は黙ってそばにいてくれて、宇髄様にお尻を触られた時は私よりも怒っていた。そして、一番心に強く残っているのは、私を背負って蝶屋敷まで連れて行ってくれた時。


「…


眠りに落ちる瞬間、普段からは想像もつかないほどの優しい声色で、私の名を呼んでくれたこと。


「…、顔がすごく赤いけど大丈夫か?」


そんな、まさか。


(片栗/カタクリ)