「確かここに…あった」


押し入れの奥にしまっていた箱を取り出すと、うっすらと雪のように埃が積もっていた。布で優しく拭ってみると、窓から差し込む光の中で小さい埃達がキラキラと舞い出すのが見えた。

そこまで大きくはないこの箱には、祖父の荷物が入っている。一応全て遺品にはなるのだが、祖父自身が綺麗好きで元々整理されていたこともあって、祖父が亡くなってから私がこの荷物に触れるのは今日が初めてだ。

家にずっとあった日輪刀らしい刀。それについて、しのぶ様に「自分で調べてみます」と言ってみたはいいものの、親戚もいなければ身近に情報を持つ人間がいるはずもなく。とりあえず、こうやって地道に手がかりを探していくしか方法はなかった。


「最初からしのぶ様にお願いしておけば良かったかな」


そう呟いて小さなため息を吐きながら、ゆっくりと箱の蓋を開ける。入っていたのは薬学に関する本や着物がほとんどだったが、本の下に小箱が入っていることに気付いた。特になんの装飾もされていない、木でできた小さな箱。見覚えのないその箱を開けてみると、布に包まれた写真が数枚入っているようだった。その写真を見て、思わず口元が緩む。


「これ、私…?」


恐らく赤ん坊の時の私だろう。一人で写っているものもあれば、少し若い祖父や祖母、そして父に抱かれて写っているのもあった。初めて目にする家族写真を、一枚ずつまじまじと眺める。さすがに母との写真はないようだが、きちんと覚えていなかった父の顔を改めて見て、こんな顔だったのかと感慨深くなった。

そして一番後ろにあった写真を見て、私は言葉を失った。疑惑が確信に変わった瞬間だった。

写真の中で、鬼殺隊の隊服を着た父が隣に並ぶ隊士と肩を組んで笑っていた。優しい、にこやかな笑顔を浮かべる父。腰にさしている刀は、家に飾ってある刀と同じもののように見える。そして、その隣にいる隊士の方を見て、さらに驚いた。

この人に似ている人を、私は知っている。


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「恐らく…煉獄さんのお父上ではないでしょうか」


写真を見てそう答えるしのぶ様に、私はやっぱり、と呟いて頷いた。しのぶ様がこちらに差し出してきた写真を受け取って、視線を落とす。

父の隣に立つ人は、こちらをじっと見つめて父と同様笑顔を浮かべている。独特な炎のような髪や凛々しい顔つき、全てが私の知る煉獄様に似過ぎていた。

この写真から分かることは、父は鬼殺隊であったということ。そして、煉獄様のお父様と私の父は、知り合いであるということだ。ひょっとしたら同期だったかもしれないし、そうでなくても鬼殺隊で同じ時を過ごしたのだろう。

黙りこんたままじっと写真を眺める私に、「さん」としのぶ様が私の名を呼んだ。


「もしよろしければ、私から煉獄さんに写真をお渡しして聞いてみましょうか?」
「え…よろしいんですか?」


しのぶ様はにっこり微笑んで頷いた。


「なかなか煉獄さんに会う機会もないと思いますし…何なら鴉に頼むこともできますから」


確かにしのぶ様の言う通りだ。最初からしのぶ様にお願いしておけば良かった、と後悔したことを思い出しながら、私は「お願いします」と頭を下げて写真をしのぶ様に渡し、部屋を後にした。

廊下を一人歩きながら、思いを巡らす。隊服を着た隊士の方を見ると懐かしい気持ちになるということは、鬼殺隊の隊士だった父と何かしら思い出があったのかもしれない。そう考えてはみたものの、昔のことを思い出そうとしてみても、何も思い出せないままだった。

煉獄様のお父様は、父のことを覚えているだろうか。もしかしたら、知らないことだらけの父について何か教えてもらえるかもしれない。父の最期について、きちんと知ることができるかもしれない。そう思うと、少しだけ手が震えた。

そして、もう一つ気になるのは祖父のことだ。

父がもし鬼殺隊に入っていなかったら、今も元気に私と暮らしていたかもしれない。言い方は悪いけれど、鬼殺隊にいたから、死んでしまったのかもしれない。そんな鬼殺隊に、祖父はどんな気持ちでいつも薬を届けていたのだろう。父と同世代の隊士の方々を見て、どんなことを思ったのだろう。そして、なぜ私に教えてくれなかったのだろう。優しい祖父のことだから、私が知ってしまったら鬼殺隊を恨むかもしれないと考えたのだろうか。

ごちゃごちゃする頭の中を一掃するかのように、強く首を振った。私のこの疑問を投げかけたい相手は、どちらももうこの世にはいない。だから考えても仕方ないはずなのに。ふと、自分が今いる場所が、先日不死川様とすれ違った場所であることに気が付いて立ち止まった。誰もいない廊下で、あの日、私の頬をつねって笑った不死川様のことを思い出す。


「…不死川様」


いつもみたいに、気配もなく現れたらどうしようと一瞬だけ思ったが、こっそりと小さな声で名前を呼んだ。少しだけ、頭の中のごちゃごちゃや心のもやもやが落ち着いた気がして、私は息をついた。

今のこの私の気持ちを、不死川様に聞いてほしい。どうしてそう思うのかは分からないが、また急に現れてくれたらいいのに。そう思いながら、しばらくの間一人その場に佇んでいた。


(捩花/ネジバナ)